独立行政法人 国立病院機構 村山医療センター

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トピック

脊髄再生について


損傷脊髄に対する治療法、肝細胞増殖因子(HGF)による臨床治験が本年6月16日にプレスリリースされました。また、iPS細胞による脊髄再生はH29年度から臨床治験が開始される見込みです。 これらの治療法は今後の脊髄再生への一歩になるかもしれません。脊髄再生医療の最先端で研究をしている藤吉先生に脊髄再生の現状と展望について教えていただきました。

再生医療の現状と展望

藤吉 兼浩 (ふじよし かねひろ)
村山医療センター 脊髄損傷病棟 医長


1. 細胞移植療法

細胞移植療法は脊髄損傷部へ細胞を移植することで、失われた機能の回復を図る治療法です。脊髄損傷後亜急性期(受傷後2~3週)が至適と考えられています。移植細胞の種類としては複数の候補があり、神経幹/前駆細胞、嗅神経細胞、骨髄間質細胞などが検討されています。このうち神経幹/前駆細胞については中絶胎児の脳からの細胞採取によるもの(胎児由来神経幹/前駆細胞)、不妊治療の余剰胚から作成されるES細胞由来の神経幹/前駆細胞などがありましたが、本邦では倫理的問題などから進んでいませんでした。このようななか開発されたのがiPS細胞です。iPS細胞は、数種類の遺伝子を導入して体細胞を初期化することでES細胞に類似した性質をもたせた人工多能性幹細胞です。これは本人の組織もしくは同意を得てドナーから採取された組織をもとに作成されるため、倫理的問題を回避できます。すでにマウスやコモンマーモセット(霊長類)の脊髄損傷モデルでは運動機能の改善が確認されています。今後は臨床への応用が期待されます。一方で移植細胞の腫瘍化(ガン化)、感染症など、まだまだ解決すべき問題もあります。


2. 細胞移植以外

損傷脊髄に神経栄養因子、肝細胞増殖因子(HGF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)などを補充する治療法で本邦を始め各国で治験が行われています。 近年の急速な進歩により様々な治療法が臨床試験に入りつつあります。前述の腫瘍化の問題などは移植手術後も経過をしっかりと観察していく必要があります。脊髄損傷の治療においては急性期から亜急性期、慢性期へと変遷していくなかで体系たてて組織的におこなっていくことが必要です。しかしこれまでの医学界の常識を覆す飛躍的進歩となりうる可能性があります。臨床応用が迫った今こそ安全性と有効性をさらに慎重に評価し、冷静に分析していくことが重要です。  


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