腰椎分離症(ようついぶんりしょう)
分離症とは
村山医療センター 医長
許斐(このみ) 恒彦
腰椎分離症(ようついぶんりしょう)(以下分離症)は、椎弓(ついきゅう)と呼ばれる腰椎の後方部分が分離した状態のことを指します。疲労骨折が原因と考えられており、成長期のスポーツ選手に多発します。日本の一般成人では約6%(男性8%、女性4%)に認められます。
*図1 腰椎の後ろ半分は「椎弓」といってリング上の構造をしています。そのリングの斜め後方は細かく弱い部分で、背中をそらす動作やジャンプからの着地のような動作で力がかかります。そういう動作を繰り返されると骨にひび(疲労骨折)が入ってきます。すべての人が分離症になるわけではなく、体質的な要因もあります。一番下の腰椎(第5腰椎)に好発します(日本整形外科スポーツ医学会HPより)。
1. 症状) 症状は病期によって異なります
症状は病期によって異なります。分離発生段階には、腰を反らしたときに狭い範囲に限られた痛みを感じ、ほとんどがスポーツ中やスポーツ直後に腰痛を自覚します。
完全に骨が折れてしまい、痛いままそのまま長期間放置していると分離が完成してしまい、分離部は偽関節(ぎかんせつ)というグラグラな状態になり、治りにくい状態になります。このときは、主に腰痛や下肢痛が生じます。このときの腰痛の原因は分離部の炎症と考えられ、膝の悪い人の膝に水がたまるように、分離部にも水がたまるようになります。また偽関節となった分離部は、周囲に骨の棘(とげ)が発生し、神経と接触することで下肢痛を引き起こすことがあります。長時間座っていたり、立っていたりしても症状を自覚し、さらには歩行時にも下肢痛やしびれなどの症状が出てくることがあります。若い頃の腰痛を放置した方で、年をとってからも腰痛を持病で持っていて医療機関にかかられる方の中に、この分離症による偽関節を認めることが多くあります。
2. 治療) それぞれの病態に応じた治療法が必要です
分離症は、発生した最初のうちは単なる疲労骨折なのですが、時間とともに病態が変化していき、治療方法も大きく変わっていきます。そのため、治療にあたってはそれぞれの病態に応じた治療法が必要です。早い段階で適切な治療を行うことができれば、完全に治す可能性が高く、一方で分離が進行すると、完全な治療はだんだん難しくなっていく特徴を持っています。
2-1. 保存治療) 発生初期の段階の分離症に対して
発生初期の段階の分離症に対しては、骨癒合を目指した根治治療をおこないます。まずコルセットを装着し、骨の癒合状況に応じて3ヶ月から12ヶ月間のスポーツ中止を指導します。手や足の骨折に対してギプス固定をおこない安静にするのと全く同じです。きちんと治療をおこなうことができれば、保存的な治療で完全な治癒が得られる確率が高まります。さらには、柔軟性を高めるために、ジャックナイフストレッチ(図2)を、朝晩5回ずつおこないます。
一方で、ひとたび完成してしまった偽関節の状態の分離症に対する治療は、コルセットを装着して安静を保っていても、骨の癒合は望めません(くっつかない)。よって、痛みの管理が治療の目的になります。分離部由来の腰痛に対しては、消炎鎮痛剤内服から始まり、症状が強い場合にはブロック注射を行います。保存治療で効果がない場合は、根治的な手術を行います。
小学保健ニュース No.959付録 少年写真新聞社 より転載
2-2. 手術治療) 整形外科を受診して、しっかりと診察を受けること
早期のスポーツ復帰を希望される場合や、長期の安静が困難な場合、また分離の進行があり保存的に骨の癒合を得ることが難しい場合は、偽関節になっていない状態であれば、低侵襲での分離部修復手術が可能です。低侵襲の手術では、腰に約1-2cmの切開を加え、筋肉を温存したままネジを骨折部に1本入れて(左右両方の場合は計2本になります)、分離部の固定をおこないます。傷が小さいため入院期間も短く(約3-7日間)、術後早期の競技復帰が可能となります。
偽関節の手術の場合、筋肉の剥離操作を伴うため侵襲が大きくなります。また偽関節部の骨の癒合を得るために、新しい骨を別の場所(多くは腸骨という骨)から採取し、偽関節部に、骨の移植を行う必要があります。偽関節がさらに進行していくと、椎間板が傷んでしまい、腰の骨がずれてくることがあります(腰椎分離すべり症)。すべり症を呈している場合には、スクリューと椎体間ケージを用いた腰椎後方椎体間固定術を行うことがあります。
このように分離症の治療は進行段階によって徐々に変わっていきます。しかし、早期に発見して治療の軌道に乗せることができれば、しっかりと治すことができます。スポーツ中に腰痛が続く場合には、整形外科を受診して、しっかりと診察を受けることをお勧めいたします。
まとめ
1.腰椎分離症は腰の疲労骨折である。
2.早期に発見できれば、コルセットで保存的に治すことが可能。
3.少し進行してしまった場合は、低侵襲の手術で治すことができ、早期の競技復帰が可能。
4.進行すると偽関節という状態になり、保存的に治すことは難しく、さらには手術も少し侵襲が大きくなる。
5.さらに進行すると、骨がずれてすべり症という状態になり、きちんと治すには、さらに大きな手術が必要となる。